黒字でも資金繰りが苦しくなる瞬間は訪れる ― なぜ利益が出ていてもお金が回らないのか

「資金繰りが苦しい会社=赤字の会社」。
そう思われがちですが、実務の現場では必ずしもそうとは限りません。

決算書を見ると黒字で、売上も伸びている。
それにもかかわらず、ある日突然「お金が回らない」「来月の支払いが不安だ」という相談を受けることがあります。

私はこれまで財務・経理の立場で、さまざまな会社の数字を見てきました。
そこで強く感じるのは、資金繰りが苦しくなる原因は「利益の有無」ではなく、現金の流れをどう捉えているかにあるという点です。

この記事では、教科書的な理論ではなく、
実務の現場で実際に起きていたケースをもとに、黒字でも資金繰りが苦しくなる理由と、現実的な対策を整理していきます。

監修・執筆者:加藤ユウ(資金繰りナビ運営者)

・25年以上にわたり企業の資金繰り支援に従事

融資交渉・キャッシュフロー改善を現場で推進

・ファイナンシャルプランナー(AFP)

黒字なのに資金が足りなくなった会社の実例

ある中小企業の話です。
毎月きちんと売上があり、決算書上も黒字でした。

経営者は「利益は出ているから問題ない」と考えており、
帳簿も整っていて、税金の支払いも遅れていませんでした。

それでも、ある時点で「来月の支払いが少し厳しいかもしれない」という状況になります。
帳簿を見ても赤字ではありません。
それでも、手元の現金は確実に減っていました。

原因を追っていくと、売上の入金は2〜3か月後。
一方で、外注費や材料費、人件費などの支払いは先に発生しています。
売上が伸びれば伸びるほど、先に出ていく現金が増えていたのです。

このように、利益は出ているのに現金が追いつかないという状態は、
実務では決して珍しいものではありません。

見ていなかったのは「帳簿」ではなく「時間」

この会社は、数字を見ていなかったわけではありません。
月次の損益計算書は毎月確認していましたし、税理士との打ち合わせも行っていました。

それでも資金繰りが苦しくなったのは、
現金の動きを時間軸で把握していなかったからです。

損益計算書が示すのは、あくまで一定期間の「結果」です。
資金繰りで本当に確認しなくてはいけないのは、「現金がいつ入金され、いつ支払いに出ていくのか」という時間のズレです。

このズレに気づかないまま経営判断を続けていると、
「黒字なのにお金がない」という状態に陥ります。

まず取り組むべき基本的な資金繰り対策

実務の立場から見て、最初に取り組むべき資金繰り対策はとてもシンプルです。
それは、資金繰り表を作ることです。

高度な資料である必要はありません。
今後数か月分について、

・いつ、どのくらい入金があるのか
・いつ、どのくらい支払いがあるのか
・月末に現金がいくら残るのか

これを時系列で見える形にするだけで、判断の質は大きく変わります。

実際、資金繰り表を作ったことで
「まだ余裕がある」「この月が危ない」と早めに気づき、
大きなトラブルを回避できた会社を何度も見てきました。


相談が早いほど、選べる選択肢は多い

資金繰りに関する相談は、早ければ早いほど選択肢が広がります。

支払い条件の見直しを取引先に相談したり、
金融機関に余裕をもって相談したりすることも可能になります。

一方で、「もう来月の支払いができない」という段階まで進んでしまうと、
選べる手段は一気に限られてしまいます。

資金繰りは、問題が表面化した時点で、
すでに対応の自由度が下がっていることが多いのです。

ファクタリングは数ある選択肢のひとつ

売掛金があり、入金までの時間を短縮したい場合には、
ファクタリングが有効な選択肢になることもあります。

ただし、ファクタリングは万能ではありません。
資金繰り表を作り、全体像を把握したうえで、
必要に応じて検討する「手段のひとつ」と考えるのが現実的です。

実務では、
資金繰り表による管理、支払い条件の調整、金融機関との相談などを組み合わせ、
状況に応じて最適な方法を選んでいく会社ほど、立て直しが早い印象があります。

実務家として伝えたいこと

資金繰りが苦しくなる会社には、共通する傾向があります。
それは、「まだ大丈夫」と判断を先送りしてしまうことです。

黒字であることは安心材料のひとつですが、
それだけで資金繰りが安泰だと判断するのは危険です。

現金の動きを時間軸で捉え、
少しでも違和感を覚えたら立ち止まって確認する。
それが、結果的に最もコストのかからない資金繰り対策になります。

まとめ

黒字であっても、資金繰りが苦しくなる瞬間は訪れます。
帳簿がきれいでも、利益が出ていても、
現金の流れを見誤れば、いきなり崖っぷちに立たされることもあり得ます。

資金繰りは「数字」だけでなく「タイミング」の問題です。
まずは資金繰り表を作り、現金の動きを把握すること。
それが、安定した経営につながる第一歩です。

この記事が、
いま資金繰りに少しでも不安を感じている方にとって、
現状を見直すきっかけになれば幸いです。

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